「出産手当金と出産育児一時金って、両方もらえるの?」
妊娠中に制度を調べはじめると、名前がよく似た給付金がいくつも出てきて、混乱しますよね。「どっちかだけ?」「合算して50万円くらい?」という疑問、すごく自然なことだと思います。
結論を先にお伝えすると、条件を満たしていれば、出産手当金と出産育児一時金は両方受け取れます。ただし「両方もらえる人」と「片方しかもらえない人」、そして残念ながら「どちらももらえない人」がいます。自分がどのパターンに当てはまるかを産前に確認しておくことが、お金の不安を減らすいちばんの近道です。
この記事では、2つの制度の違い・受給条件・計算方法・申請手順を、できるだけかみくだいて解説します。難しい制度用語は最小限に、「で、私はどうすればいいの?」にまっすぐ答えていきますね。
⚠️ この記事の情報は2026年4月時点のものです。制度は変更される場合があります。最新情報は全国健康保険協会(協会けんぽ)、ハローワーク、または厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
結論:両方もらえます——でも「条件次第」で変わる
まず表で整理してしまいましょう。2つの制度は目的も支給元も申請先もまったく別の制度です。だから重複してもらっても何も問題ありません。
| 出産育児一時金 | 出産手当金 | |
|---|---|---|
| 目的 | 出産費用(病院への支払い)の補助 | 産休中の生活費(給料の代わり) |
| 支給元 | 健康保険(協会けんぽ・組合健保・国保) | 健康保険(協会けんぽ・組合健保) |
| 金額 | 50万円(原則一律) | 給与によって異なる |
| 受給条件 | 健康保険に加入していれば原則OK | 会社員など被用者保険加入が必要 |
| 申請先 | 病院窓口(直接支払制度)または健保 | 勤務先経由で健保へ |
なぜ2つ一緒にもらえるのか?制度の目的が違うから
「出産育児一時金」は「病院に払うお金」のサポートです。正常分娩は健康保険が使えないため、全額自己負担になってしまいます。その負担を軽くするための制度で、50万円が一律で支給されます。
「出産手当金」は「産休中に給料が出ない分」の補填です。会社を休んでいる間の収入補償なので、「病院への支払い」とはまったく別の話です。
つまり、お金の使い道が違う2つの制度なので、両方同時に受け取っても「二重取り」にはなりません。むしろ、受給資格があるのに申請し忘れるほうが大きな損失です。
両方もらえる人・片方だけの人・どちらももらえない人
✅ 両方もらえる人
会社員・派遣社員・パートで、協会けんぽまたは組合健保に加入している人。勤続期間の縛りは出産育児一時金にはありません(出産手当金にも原則なし)。
⚠️ 出産育児一時金だけもらえる人
国民健康保険(国保)に加入している自営業者・フリーランスの人。出産育児一時金は国保加入者も対象ですが、出産手当金は国保では原則支給されません(一部自治体で独自の制度がある場合あり)。
❌ どちらももらえないケース
健康保険に加入していない場合(稀なケース)や、被扶養者でもなく国保にも未加入の状態では受給できません。ただし、日本では基本的に何らかの公的健康保険に加入する義務があるため、通常は出産育児一時金は受け取れます。
出産育児一時金とは——50万円の一括補助金
「出産育児一時金」は、健康保険から支給される一時金で、2023年4月以降は原則50万円(産科医療補償制度に加入していない病院での出産は488,000円)に引き上げられています。
受給条件:健保に入っていれば原則もらえる
以下のいずれかに当てはまれば受け取れます。
- 健康保険(協会けんぽ・組合健保)の被保険者本人
- 健康保険の被扶養者(たとえば夫の扶養に入っている専業主婦)
- 国民健康保険の加入者
- 退職後6ヶ月以内の出産で、退職前に健康保険に1年以上継続加入していた人
妊娠週数は問わず、妊娠12週(85日)以上であれば死産・流産でも支給対象になります。
直接支払制度で「立替ゼロ」が基本
ほとんどの病院では「直接支払制度」が利用できます。これは健保から病院に直接50万円が支払われる仕組みで、自分で立て替えて後から請求する手間が不要です。
入院前に病院に「直接支払制度を利用します」と伝えるだけでOK。同意書にサインするだけで手続きは完了します。「申請書を書いて健保に郵送して…」という手間はほぼありません。
注意点:出産費用が50万円未満なら差額が返ってくる
病院への支払い総額が50万円未満だった場合、差額は後日加入している健保から口座に振り込まれます。申請が必要なので、忘れずに手続きしてください(直接支払制度利用の場合、病院から「出産育児一時金直接支払制度に係る代理契約に関する書類」が渡されます)。
逆に、出産費用が50万円を大幅に超えた場合(帝王切開・入院延長など)は、差額分を自己負担します。ただし帝王切開は健康保険が使えるため、実際の自己負担はそれほど多くないケースがほとんどです。
出産手当金とは——産休中の「給料の代わり」
「出産手当金」は、産前産後休業(産休)中に給料が出ない代わりに、健康保険から支給される給付金です。
「育児休業給付金(育休手当)」と名前が似ていて混乱しやすいのですが、出産手当金は産休中、育児休業給付金は育休中の給付なので別物です。産休と育休を続けて取る場合、どちらも条件を満たせばそれぞれ受け取れます。
受給条件:会社員・協会けんぽ加入が必須
出産手当金には、出産育児一時金にはない大きな条件があります。
- 協会けんぽまたは組合健保の「被保険者本人」であること(被扶養者は対象外)
- 産休中に給与が支払われていないこと(または支払われていても出産手当金より少ないこと)
- 産休を実際に取得していること
つまり、フリーランス・自営業・国保加入者は原則として対象外です(一部自治体の国保で独自支給あり)。また、専業主婦で夫の扶養に入っている人も対象外になります。
パートやアルバイトでも、会社の健康保険(社会保険)に加入していれば対象になります。扶養の範囲内で国保・国民年金に加入している場合は対象外です。
もらえる期間:産前42日+産後56日の計98日
出産手当金が支給される期間は、産前42日(多胎妊娠は98日)+産後56日の合計98日間(多胎妊娠は154日間)です。
ポイントは「予定日」ではなく「実際の出産日」を基準に計算される点です。
【例1】予定日より10日早く生まれた場合
産前休業:実際の出産日から42日前〜出産日
産後休業:出産日翌日〜56日後
合計98日分が支給対象
【例2】予定日より7日遅く生まれた場合
産前休業:予定日42日前から取得開始→実際には42日+7日=49日間の産前休業
産後休業:出産日翌日〜56日後
合計105日分が支給対象(予定日超過分も支給される)
金額シミュレーション:月収別にいくらもらえるか
出産手当金の計算式は次の通りです。
1日あたりの支給額
= 標準報酬月額 ÷ 30日 × 2/3
※標準報酬月額は、毎年4〜6月の給与をもとに決定される社会保険上の月収のようなものです。手取りではなく総支給額ベースです。
月収別のシミュレーションを計算してみました(産後56日分の概算)。
| 月収(標準報酬月額目安) | 1日あたり支給額 | 98日分(総額) |
|---|---|---|
| 20万円 | 約4,444円 | 約435,500円 |
| 25万円 | 約5,556円 | 約544,500円 |
| 30万円 | 約6,667円 | 約653,300円 |
| 35万円 | 約7,778円 | 約762,200円 |
| 40万円 | 約8,889円 | 約871,100円 |
※上記はあくまで概算です。実際の受給額は標準報酬月額の等級によって異なります。正確なシミュレーションは下記のツールをご活用ください。
産前分も合わせると、月収30万円の方であれば出産手当金だけで60万〜70万円以上になることもあります。出産育児一時金の50万円と合計すると100万円を超えるケースも珍しくありません。
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申請の流れと「やらかしがちな落とし穴」
2つの制度は支給元が同じ「健康保険」でも、申請の手間・タイミングがまったく違います。ここが一番の注意ポイントです。
出産育児一時金の申請(病院窓口でほぼ完結)
直接支払制度を利用する場合の流れはシンプルです。
- 入院前または入院時に、病院から「直接支払制度同意書」が渡される
- サインして提出する(これだけ)
- 退院時、出産費用から50万円が差し引かれた金額を支払う
- 差額が発生した場合は、退院後に健保へ差額請求書を提出
注意が必要なのは、在宅分娩・助産院など直接支払制度に対応していない施設での出産です。その場合は一旦全額を自分で支払ってから、健保に請求する「受取代理制度」または「事後申請」を利用します。
出産手当金の申請(産後に自分で動く必要あり)
出産手当金は、産休が終わったあとに自分で(会社経由で)申請します。病院のように「お任せ」ではないため、産後の忙しい時期に手を動かす必要があります。
申請の流れ
- 勤務先の人事・総務担当者に「出産手当金の申請をお願いしたい」と伝える(産前から相談しておくとスムーズ)
- 健保の申請書(「出産手当金支給申請書」)をもらう
- 「被保険者記入欄」を自分で記入
- 医師または助産師に「医師等記入欄」を記入してもらう(出産した病院で)
- 「事業主記入欄」を会社の担当者に記入してもらう
- 会社から健保へ提出(または自分で健保へ郵送)
- 振込まで約2週間〜1ヶ月程度
書類のやり取りが多くて面倒に感じますよね。でも産前に会社の担当者に「産後に出産手当金の申請をしたいので、書類を用意してもらえますか?」と声をかけておくだけで、スムーズに動いてもらえることがほとんどです。
申請期限の意外な落とし穴——産後の忙しさが罠
出産手当金の申請には時効(2年)があります。産後56日目の翌日から2年以内に申請すれば受け取れます。
「2年もあるから余裕」と思いきや、産後の育児でバタバタしているうちに忘れてしまう方が意外と多いのです。育休中は育児休業給付金(こちらはハローワークから)の手続きもあるので、「産休の手当金を申請したかどうか…」が記憶の彼方に行ってしまうことがあります。
対策として、退院後1〜2週間以内に「出産手当金、申請した?」とスマホのリマインダーをセットしておくのをおすすめします。
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こんなケースはどうなる?よくある疑問Q&A
Q. パート・アルバイトでも両方もらえますか?
A. 勤め先の社会保険(健保・厚生年金)に加入していれば、両方もらえます。
勤務時間が週20時間以上・月収88,000円以上(2024年10月以降、従業員51人以上の事業所では基準が広がっています)などの条件を満たして社会保険に加入していれば、正社員と同じく対象です。
一方、「扶養の範囲内で働いている=国保・国民年金加入」の場合は、出産育児一時金のみ受け取れて出産手当金は対象外になります。
「自分が社会保険に入っているかどうか」は、給与明細の社会保険料の欄で確認できます。「健康保険料」と「厚生年金保険料」が引かれていれば加入しています。
Q. フリーランス・自営業はどちらかだけ?
A. 国保に加入しているフリーランス・自営業は、出産育児一時金(50万円)のみ対象です。出産手当金は原則もらえません。
「原則」と書いたのは、一部の市区町村の国民健康保険では、独自の出産手当金に相当する制度を設けているところがあるからです。お住まいの市区町村の国保担当窓口に問い合わせてみてください。
フリーランス・自営業の方は、産休中の収入が完全にゼロになる可能性があります。出産育児一時金(50万円)を生活費に当てることができないため、出産前からの貯蓄計画がより重要になります。
Q. 退職後に出産する場合はどうなる?
退職後の出産でも、条件を満たせば両方受け取れます。
出産育児一時金:退職後に夫の扶養に入るか、国保に加入すれば対象になります。
出産手当金:退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あり、退職後6ヶ月以内の出産であれば「継続給付」として受け取れます。退職後に夫の扶養に入っていても、自分の旧健保への申請が必要です。
例えば、妊娠をきっかけに産前に退職した場合、退職日から6ヶ月以内に出産すれば、元の勤め先の健保に申請することで出産手当金が受け取れます(継続1年以上加入が条件)。退職のタイミングには注意が必要です。
Q. 育児休業給付金とも重複してもらえるの?
A. 出産育児一時金・出産手当金・育児休業給付金は、すべて別の制度なので重複してもらえます。
整理するとこうなります。
- 産休中(産前42日+産後56日):出産手当金(健保から)
- 育休中(産後57日目以降):育児休業給付金(雇用保険=ハローワーク経由)
- 出産時:出産育児一時金(健保から一括)
ただし、出産手当金と育児休業給付金は期間が重ならないため「同時にダブルで受け取る」わけではありません。産休が終わって育休が始まると、今度は育休中の給付金の申請が必要になります。
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産前にやっておくべき3つのアクション
最後に、この記事を読んだあとに「すぐやること」をまとめます。
① 自分が社会保険に加入しているか確認する
給与明細を開いて「健康保険料」と「厚生年金保険料」が引かれているか確認してください。引かれていれば社会保険加入→出産手当金の対象です。引かれていなければ国保加入の可能性が高い→出産育児一時金のみ対象になります。
② 産前に会社の担当者に出産手当金の申請について相談する
産後の慌ただしい時期に「書類を集めて…」となると、本当に大変です。産休前のうちに「出産手当金の申請、いつごろどのように進めればいいですか?」と一言確認しておくと、産後がグッとラクになります。
③ 出産する病院に「直接支払制度」の利用意思を伝える
出産育児一時金の手続きは、入院時に病院に「直接支払制度を使います」と伝えるだけでOKです。入院前の健診時に確認しておくと、入院当日に慌てません。
まとめ
- 出産育児一時金(50万円)と出産手当金は別制度なので両方受け取れる
- 会社員・社保加入者は両方対象。フリーランス・国保加入者は育児一時金のみ(原則)
- 出産育児一時金は病院窓口で申請がほぼ完了(直接支払制度)
- 出産手当金は産後に会社経由で申請が必要——産前から担当者に相談しておく
- 産休の次の育休中は育児休業給付金(別申請)が始まる
- 月収30万円なら出産手当金だけで65万円超→一時金と合わせて100万円超も可能
「お金のことはよくわからなくて…」と産前に感じる方は多いですが、2つの制度の違いを知っておくだけで、産後の不安がかなり減ります。受給できるお金はしっかり受け取って、赤ちゃんとの生活に備えてくださいね。
わからないことがあれば、勤め先の人事担当者や、加入している健康保険の相談窓口に聞いてみてください。「こんな基本的なこと聞いていいの?」と遠慮しなくて大丈夫です。窓口の方は丁寧に答えてくれますよ。



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